宗教は過去のものか

ムハンマド・アサッド著


一、まえがき


 人間の意識が目覚めはじめた太古の時代から、宗教は人間を未知の終着点へと駆り立 てるひとつの強力な働きを持ってきた。駆り立てる力は宗教だけでなく、飢餓もそのひとつであり、また人間の野心もそのひとつであった。しかし宗教は、これまでの人類の長い歴史を通して、良きにつけ、悪しきにつけ、常にその中心的な位置を占めて きた。



 宗教の名のもとに幾多の王国が建設され、国家が成立し、また王国が破壊され、国家が滅んだ。宗教の秘める力のもとに、愛と自己犠牲の極にまで達した例もあり、反面その力を暴力と圧政に用いた例もあった。宗教は多くの人々に生きる指針と大きな喜びを与え、また一方では人々に人生を空虚な幻影として軽蔑させしめたのである。さ らに人々に創造的な情熱と不朽の文化的功績を打ち立てるほどの力を与え、また一方では迷信的な慣習や愚鈍さへと追いやったのである。いずれの形にしても、宗教を信 じたすべての人達にとって、宗教は幸福をもたらすものであったことは否定できない。



 宗教観の相違こそあれ、すべての宗教のなかに、人々を動かす「なにか」が内在していたことは疑う余地はないであろう。








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