ハディース・イスラーム伝承集成
夢の解釈(二分の二)

< BR>
ブハーリー編纂
牧野信也訳




三一
夢で見た宮殿。

(一)アブー・フライラによると、神の使徒は言った。「夢でわたしは天国に居たが、見ると、或る宮殿の傍で一人の女が浄めを行っており、『この宮殿は誰のものか』と尋ねたところ、ウマルのものだ、ということであった。そこで、わたしは彼の嫉妬を感じ、立ち去った」と。これを聞いてウマルは「神の使徒よ、あなたのためにわたしの父母を捧げてもよいと思っていますのに、どうしてそのあなたを妬むでしょう」と言って泣いた。〕ジャービル・ブン・アブド・アッラーによると、神の使徒は言った。「夢でわたしが天国に入ったとき、金の宮殿があったので、『これは誰のものか」と尋ねると、クライシュ族の或る男のものだ、ということであった。そこでわたしが『ウマルよ、お前の嫉妬を知っていたから、わたしはそこへ入らなかったのだ』と言ったとき、彼は『どうしてわたしがあなたを妬むでしょうか』と応えた」と。




三二
夢で見た浄め。

(一)アブー・フライラによると、神の使徒は「わたしは天国に居る夢を見たが、或る宮殿の傍で一人の女が浄めを行っており、『この宮殿はだれのものか』と尋ねたところ、ウマルのものだ、ということであった。そこでわたしは彼の嫉妬を感じて立ち去った」と言った。これを聞いてウマルは「神の使徒よ、あなたのためにわたしの父母を捧げてもよいと思っていますのに、どうしてそのあなたを妬むでしょう」と言って泣いた。




三三
夢でカァバの周りを巡ること。

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、神の使徒は言った。「夢でわたしはカァバの周りを巡っていたが、(見ると、そこには髪を長く垂らし、頭から雫を滴らせている褐色の肌の男が居り、『これは誰か』と尋ねると、マルヤムの子イーサだということであった。次に振き向くと、赤い顔で縮れ毛の大男が立っており、その布目はつぶれて種を抜いたぶどうのようであった。『これは誰か』と尋ねると、偽キリストだ、ということであった。これに最もよく似ているのは、フザーア族のムスタリク家のイブン・カタンという男である」と。




三四
夢で乳の残りを他の人に与えること。

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、神の使徒が「夢でわたしに乳の入った器がもたらされ、それを飲んだところ、わたしの体から乳が溢れ出た。そこで、わたしは乳の残りをウマルに与えた」と言ったとき、人々が「神の使徒よ、この夢をどのように解かれますか」と尋ねると、彼は「ここで乳とは知識のことだ」と答えた。




三五
夢における安心と、恐怖の消失。

(一)ナーフィゥによると、イブン・ウマルは語った。神の使徒の存命中、教友達の或る人々は夢を見ると、それを彼に話し、解いてもらっていた。その頃わたしはまだ若く、結婚する前、モスクの中で暮らしていたが、もしわたしの中に何か良いところがあるならば、彼らのように夢を見ることができるであろうに、と思い、或る夜、寝るとき「神様、もしわたしの中に何か良いところをお認めになりましたら、どうか夢を見させて下さい」と祈った。すると、夢に二人の天使が現われ、それぞれが手に鉄の棒をもってわたしを地獄の方へ連れ去ったので、わたしは二人の間で「神様、どうか地獄からお助け下さい」と叫んだ。すると、やはり手に棒を持ったもう一人の天使が現われて「怖れることはない。もし多く祈るならば、お前は何とすばらしい男であることか」と言ったが、彼らはさらにわたしを引き張って行き、遂に地獄の縁に立たせた。見ると、地獄は井戸のように石で築かれた足場があり、それぞれ二つの足場の間には鉄の棒をもった一人の天使が立っていた。その中でわたしは鎖でさかさに吊りさげられた人達を見たし、またクライシュ族の人々もそこに認められ、それから天使達はわた しを右側の方へ連れて行った。この夢のことをわたしがハフサに話し、ハフサがそれを神の使徒に話したとき、彼は「本当に、アブド・アッラーは立派な男だ」と言った、と。ナーフィゥによると、この時以後、アブド・アッラーは多く祈ることを続けるようになった、という。




三六
夢で右の方へ連れていくこと。

(一)イブン・ウマルは言った。預言者の存命中、わたしはまだ若く、モスクに泊っていたが、夢を見た人は皆それを預言者に話していたので、わたしは「神様、もしわたしに何かよいところがありましたら、夢を見させて下さい。神の使徒が解いて下さるでしょうから」と祈った。すると、夢で二人の天使が現われてわたしを連れ去ったが、もう一人の天使がやって来て「怖れることはない。お前は立派な人だから」と言った。二人の天使はわたしを地獄の方へ連れて行き、見ると、それは井戸のように石で築かれており、その中にはわたしが知っている人達もいた。それから天使はわたしを右の方へ連れて行った。朝になって、わたしがこれをハフサに話し、ハフサがそれを預言者に伝えたとき、彼は「夜に多く礼拝をするならば、アブド・アッラーは何とすばらしい男であることか」と言ったと。アッ・ズフリーによると、この時以後、アブド・アッラーは夜歩く礼拝するようになった、という。




三七
夢で見た器。

(一)イブン・ウマルによると、神の使徒が「夢で、乳の入った器がもたらされ、わたしはそれを飲んで残りをウマル・ブン・アル・ハッターブに与えた」と言ったとき、人々が「その夢をどのように解かれますか」と尋ねると、「ここで乳は知識のことだ」と彼は答えた。




三八
夢の中で飛び去るもの。

(一)ウバイド・アッラー・ブン・アブド・アッラーがアブド・アッラー・ブン・アッバースから聞いたところによれば、神の使徒は「夢でわたしの両腕に金の腕輪がはめられたが、わたしはこれが嫌であったので息を吹きかけたところ、それらは飛び去った。この夢を解くならば、二つの腕輪とは、わたしに抗う二人の為預言者である」と言った。ウバイド・アッラーによると、その一方はファイルーズがヤマンで殺したアル・アンスィーであり、他はムサイリマである、という。




三九
牛が屠られるのを見ること。

(一)アブー・ムーサによると、預言者は言った。「わたしは夢で自分がメッカから、なつめやしの生えた土地へ移住するのを見て、はじめそれはヤマーマかハシャルだと思ったが、ヤスリブの町であった。そこでわたしは牛が屠られるのを見たが、それはウブドの戦の日の信徒達であった。また、そこで神が与えて下さった戦利品も見たが、本当の報いはバドルの戦の後に与えられたものであった」と。




四〇
夢で息を吹きかけること。

(一)アブー・フライラによると、神の使徒は「我々後の者は先の者となるであろう」と言ってから、次のようにつげ加えた。「夢でわたしに地上の宝がもたらされ、わたしの両腕に金の腕輪がはめられたが、それはわたしにとって重荷であり、苦痛であった。すると、それに息を吹きかげるように神から示され、わたしがその通りにしたとき、腕輪は飛び去った。この夢を解くならば、二つの腕輪はわたしに逆らうサヌァーとヤマーマの二人の偽預言者である」と。




四一

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、預言者は「夢でわたしは、髪をかき乱した黒人の女がアル。マディーナを出てマフヤアすなわちアル・ジュフファに留まるのを見たが、この夢を解くならば、アル・マディーナのペストがアル・ジュフファまで広まることを示す」と言った。




四二
黒人の女。

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、預言者は「夢でわたしは、髪をかき乱した黒人の女がアル。マディーナを出てマフヤアに留まるのを見たが、これを解くならば、アル・マディーナのベストがマフヤアすなわちアル・ジュフファまで広まることを示す」と言った。




四三
髪をかき乱した女。

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、預言者は「夢でわたしは、髪をかき乱した黒人の女がアル・マディーナを出てマフヤアに留まるのを見たが、これを解くならば、アル・マディーナのペストがマフヤアすなわち、アル・ジュフファまで広まることを示す」と言った。




四四
夢で刀を振りまわすこと。

(一)アブー・ムーサによると、預言者は「夢でわたしが刀を振りまわしたとき刃がこぼれたが、これはウフドの戦の日に信徒達が蒙った災いのしるしである。次にもう一度振りまわすと、刀は前よりも美しくなった。これはアッラーがお与え下さった勝利と信徒達の結束のしるしである」と言った。




四五
夢について偽ること。

(一)イブン・アッバースによると、預言者は「本当に見ない夢を見たふりをする者は、二本の細い毛を結ぶように命じられるが、できないであろう。自分を嫌い避けている人々の話を聞こうとする者は、復活の日、その耳に溶けた鉛を注がれる。そして生きものの絵を描く者は罰せられ、それに命を吹き込むように命じられるが、できないであろう」と言った。



(二)同様の伝承が他のイスナードによっても伝えられる。



(三)イブン・ウマルによると、神の使徒は「本当に見なかったことを見たふりをすることは、最も悪い偽りの一つである」と言った。




四六
嫌な夢を見たときは、誰にも話すな。

(一)アブド・ラッビヒ・ブン・サイードによると、アブー・サラマは夢を見て病気になり、またアブー・カターダも夢を見て病気になったというが、彼は、預言者が次のように言うのを聞いた。「良い夢はアッラーから来る。あなた方のうちの誰でも、好ましい夢を見たときは、愛している人にだげそれを話しなさい。しかし嫌な夢を見たときは、その悪とシャイターンの悪に対して神の助けを求めてから三回唾を吐き、それを誰にも話してはならない。そうすれば、この夢によって害を蒙ることはないであろう」と。



(二)アブー・サイード・アル・フドリーは神の使徒が次のように語るのを聞いた。「あなた方のうちの誰でも、好ましい夢を見たとき、それは神からであるから、アッラーを讃え、それを人に話しなさい。しかし嫌な夢を見たときは、悪魔からであるから、その悪に対して神の助けを求め、その夢のことを誰にも告げるな。そうすれば夢によって害を蒙ることはないであろう」と。




四七
夢解きが当らないこと。

(一)イブン・アッバースによると、或る男が神の使徒のもとに来て「ゆうべわたしは夢を見ましたが、雲が油と蜂蜜を降らせると、人々は駈け寄って来て或る者は多く、また他の者は少し集めた。そのとき一本の綱が天から地まで下りて来て、あなたがそれをしっがりつかんで昇り、次に他の男がそれをつかんで昇り、次にまた他の男がそれをつかんで昇り、さらに他の男がつかむと綱は切れましたが、また繋がれました」と言った。そこでアブー・バクルが「神の使徒よ、わたしにこの夢を解かせて下さい」と求めると、彼が「では解いてごらん」と応えたので、アブー・バクルは言った。「雲とはイスラームのことであり、滴る油と蜂蜜はコーランをさし、或る者はコーランから多くを、他の者は少し得ました。そして天と地を結ぶ綱は、あなたがもたらした真理で、それをつかんであなたは昇り、あなたの後にも幾人もの人達がそれによって昇り、最後の人がつかんだとき、綱は切れましたが、また繋がれ、それによって彼も昇りました」と。それからアブー・バクルが「神の使徒よ、わたしの夢解きが当っているか、或いは間違っているか、おっしゃって下さい」と願ったとき、彼が「一部は当っ ており、一部は違っている」と応えると、「では、間違っている点を是非お教え下さい」とさらに求めたので、神の使徒は「そう、せっつかないでくれ」と言った。




四八
朝の礼拝後の夢の解き明かし。

(一)サムラ・ブン・ジュンダブによると、神の使徒が屡々行ったことの一つとして、教友達に「お前たちのうちで夢を見た者がおるか」と尋ねると、誰かが彼に話すのであった。ところで、或る朝、彼は次のように語った。「ゆうべ夢でわたしに二人の天使が現われて『さあ行こう』と言ったので一緒に出かけると、寝ている一人の男のところに着いたが、その傍には大きな石を持った他の男が居て、それを男の頭に落し砕いていた。そして石が地面に転げ落ちたとき、彼はそれを追いかけてつかまえ、引き返してみると、男の頭はもとのようにすっかり治っていたので、彼は最初にしたようにまた繰り返した。そこで、わたしが天使に「体、この二人の男は何ですか」と尋ねたが、彼らは「先へ行こう」とだけ応えた。


次に我々は仰向げになっている一人の男のところに行ったが、その脇には鉄の鉤を持ったもう一人が居て、その男の顔の半分を口から項まで、鼻から項まで、そして目から項まで引裂き、次にもう半分を今と同じようにした。そして一方が済むやいなや、他方はもとのように治るが、また彼は前と同じように繰り返すのであった。そこで、わたしが『この二人は一体何ですか』と尋ねたが、彼らは『先へ行こう』と応えるだけであった。次に我々は炉のようなもののところへ行くと、その中では何か物音がしていたが、中を覗き込むと、そこには裸の男達や友達が居て、下から火にあぶられ悲鳴をあげていた。わたしが『この人達は何ですか』と尋ねたが、『先へ行こう』と彼らは応えるだけであった。次に我々は血のように赤い川のところへ行き、見るとその中には一人の男が泳いでおり、川岸にはもう一人の男が沢山の石を集めていた。泳いでいる男は川岸の男のところへ達すると、口をあけられて石を放り込まれ、また泳いでいくが、戻って来ると、また口に石を放り込まれる。そこで、わたしが『この二人は何ですか』と尋ねたが、『先へ行こう』と彼らは応えるだけであった。


次に我々はこれまで見たこともないほど怖ろしい形相の男のところに行ったが、彼は火を焚いてその周りを巡っていた。わたしが『この人は何ですか』と尋ねたが、『先へ行こう』と彼らは応えるだけであった。


次に我々は春の花の咲き乱れる或る園に行ったが、その真中には、雲に隠れて頭が見えないほど背の高い男が立ち、その周りにはかって見たこともないほど大勢の子供達が居た。わたしが『これは一体何ですか』と尋ねたが、『先へ行こう』と彼らは応えるだけであった。次に我々はこれまで見たこともないほど大きく美しい園に着き、『登りなさい』と言われて登ると、金と銀の塊で建てられた町に達した。そして門が開かれて入ったとき、我々は、体の半分がこの上なく美しく、他の半分がこの上なく醜い男達に出過った。そこには水の清い川が流れていたが、わたしの連れの二人の天使が彼らに『行って川に飛び込め』と言い、彼らが飛び込むと、体の醜さはすっかりなくなり、全く美しい姿になって戻って来た。ここで天使達は『これはアドンの園、お前の棲家なのだ』と言った。ふと目をあげると、白い雲のような宮殿が聳え、天使がまた『これはお前の棲家なのだ』と言ったので、わたしが『有難うございます。では、中へ入らせて下さい』と求めたとき、『今はまだできないが、やがて入れるであろう』と彼らは応えた。


これらの後で、わたしが天使達に『ゆうべ、わたしは不思議なものを沢山見ましたが、それらは一体何でしょうか』と尋ねたとき、彼らは『お前にその意味を教えて上げよう』と言って次のように語った。『お前が最初に訪れた男で、石で頭を砕かれていた者とは、コーランを戴いたが、それを斥け、定められた礼拝をせずに眠っている者であり、また、口から項、鼻から項、そして目から項までを引裂かれた男とは、朝から家を出て、方々に嘘を言いふらす者であり、また炉のようなものの中へ入れられた裸の男達と友達とは姦通を犯す者であり、また、川を泳ぎ、石を口に放り込まれた男は利息を食らう者であり、また火を焚いてその周りを巡る恐ろしい形相の男は地獄の番をする天使マーリクであり、また、園の中に居た背の高い男はイブラーヒームであり、その周りに居た子供達はイスラームを信じて死んだ者達である』と」と。


ここで信徒達が「神の使徒よ、多神教徒の子供達も居ますか」と尋ねたとき、彼は「居る。そして体の半分は美しく、半分は醜い人々は、よい行いと悪い行いを同時にした者であるが、アッラーは彼らを見逃された」と答えた。










書名
著者
出版社
出版年
定価
ハディース・イスラーム伝承集成
下巻: ISBN 4124031378
ブハーリー編纂
牧野信也訳
東京・中央公論社 1991 本体9515



イスラミックセンターパンフレットのページへ戻る
聖クルアーンのページへ戻る
ホームページへ戻る