フィリピン・ラナオ湖環境破壊について
木場公男
 慈愛あまねく慈悲深きアッラーの御名によりて。
 ミンダナオのムスリムの友人・弁護士で国会議員であったバヤン・バルト氏から手紙をもらった。
 四万五千ヘクタールの土地が洪水で浸水、農耕もできず、モスクに礼拝にもいけない。40パーセント以上の家々に電気がつかず、クルアーンやハディースの勉強もできぬとのこと。その原因は、ラナオ湖の電源開発工事の環境破壊であること。善意のかる方々より救済・援助の寄付などお願いしたい、と写真付きの浸水の様子などの証拠と共に訴えている。どうか、いと高きアッラーの配慮のもと適切な助けが皆様より与えられんことを。アーミーン。
1、フィリピンは別名『東洋の真珠』といい、また、ある人はビラード・ル・ワクワク・フィル・ジュヌービ(南のワクワクの国)という。

 注:ビラード・ル・ワクワク・フィッ・シマーリ(北のワクワクの国)が日本である。

 ワクワクという大きな鳥は、翼をインド洋とシベリヤに対して広げ、ヴェトナムで一部は中国を通って北上、ミールの郷という平和の郷、すべての川が北に向かった人気もないとちまで飛び(中国の人々はその鳥を大鵬と呼んだ)、また、他の田印はフィリピンさらに日本に飛来した。

 注:ワクワクの国についてはアラブの学者の研究にくわしくあり、ヨーロッパの学者にも無視できぬものがある。単におとぎ話ではない。しかし、私は北と南に分けるのを妥当と信ずるものである。

 よって、日本とフィリピンは縁の浅からぬものがある。豊臣時代の呂宋助左衛門の話にとどまらない。
2、フィリピンのムスリムは、ボルネオやマラッカより、マジャパヒトのジャワ王朝の終わり頃ミンダナオやスールーに来た人々によって知られるようになった。それから、ミンダナオとスールーにA.D.1492年以降マグィンダナオ(Magindanao)とスールー(Sulu)のムスリムの国(State)ができ、1918年の時点で、前者は21代後者は25代のスルタンとしの王統が継承した。
 私がフィリピンに行ったとき購入した書物によると、ミンダナオの地方の23の部族のうち6つがイスラームの信条を受け容れたとある。スペイン仁がそれらの人々をモロ(Moros)と呼んだのであった。
 マラナオ族というのはその中の有力部族でラナオ湖(Lake Lanao)の地方に住んだムスリムである。マラナオ(Maranow)というのは「湖の人々」というのが原義である。
3、フィリピンの南ミンダナオのラナオ・デル・スール(Lanao Del Sur)地方は構成区画のRegion ]Uであるが、元々マラナオ族の土地で、彼らがイスラームを受け入れてからも平和の郷として幸福に暮らしてきた。ラナオ湖というのは高い山の頂上にあるカルデラ湖らしい。大きな湖でまわりに集落がたくさんでき、マラウィ市(Marawi City)がその中心で、ラナオ・デル・スール州の首都でもある。
 マラナオ族の人々は信心深いムスリムで観光案内にも旅行者は「アッサラーム・アライクム」(あなたの上に平安あれ)という挨拶に出会うであろうと書いてある。湖のほとりに静かに立つ白いマスジド(イスラム寺院)を見るであろう。
 1962年ミンダナオ州立大学(Mindanao State University)が設立され、その中にKing Faisal Center of Arabic and Islamic studiesの研究所も併設されている。
 マラナオの人々は湖で漁業もするが、林業や木工品を作るのが上手で、また農耕にも精を出し、若干の人々は商業や貿易にも従事した。この地方では、黄色いご飯が有名である。ココナッツミルクやターメリックを混ぜてつくるのであるが、美味しい。また、ココナッツミルクと茶色の佐藤で上手においしいお菓子も作る。彼らは十分生活を享有してきた。
4、ところが1956年から1972年にかけてフィリピン中央政府は一連の電源開発プラントをマラナオの土地に建設した。その着眼点はよかったと思う。何故かというと高いところの湖水の水を下流に対して利用するため、何段ものダムを作れるからである。計952.1MWに達した。2003年にはN.P.C.(National Power Corporation)は、1,664MWの電力を発電した。300,000,000US$(1ドル100円にして約300億円)の収入を上げた。これらの数字の81.4%はフィリピン北部の電力需要者にうられたものである。(2004年政府発表のデータによる)しかし、収入の99%はマニラの中央政府に送られた。地元のマラナオには、その配分はなく、結果的に農地への洪水、4万5千ヘクタールに達する土地への浸水、42%のマラナオの人々の家庭に電気がない災害をもたらしたに過ぎない。N.P.C.(国営電力公社)は、何十年もラナオ湖の水を不当に利用したのと同じ結果となっている。めくらのモグラでもなくては、この惨状に気がつかぬはずはあるまい。良識ある衡平(Equity)と正義(Justice)の声を上げるであろう。
 電源開発の工事は地すべりによる洪水をもたらした公算が大きい。カルデラ湖は大きな鉢のように水をたたえていると思われるのであるが、山地の亀裂は鉢にひびを入れ水が流失していると思われる。そうでなければ、4万5千ヘクタールもの農地そのほかが水浸しになるはずがない。26年にラナオ湖の水は涸渇すると心配されている。ラナオ湖の水が涸渇すれば、電源公社の収入3百ミリオンUS$(約300億円)のお金も入らなくなるであろうし、ラナオのムスリムの生業、農耕や林業も成り立たなくなってしまう。
5、ここにおいて私は3つの重要な提言を行うものである。
(1)フィリピン政府とムスリムは協力して科学・技術的また土木や地質学上の調査団の派遣を隣国のよしみによって早急におこなうよう日本政府にお願いすること。内政問題に介入することを恐れる人が多いが、そうではなくフィリピン政府とラナオのムスリム双方に緊急に必要なことなのである。
(2)ラナオ湖の割れ目の調査とその修復。
(3)4万5千ヘクタールの浸水の排水と適切な貯水池の建設。

この深刻で難しい困難に対し、いと高きアッラーがその慈悲の翼をおかれんことを。 アーミーン。

 
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