アッサラーム誌72号より(1997年4月10日発行)
聖クルアーンと預言者の伝承に見るミツバチと蜂蜜
ファウズィ・アラウィー・アルジュマイリ

 慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。また主はミツバチに啓示で語りかけた。「丘や樹木、また人間が建ててくれるものを住居としなさい。そしてあらゆる果実を吸い、主の用意した平坦な道で戻りなさい。」
 やがて、ミツバチの腹から種々の異なった色合いの飲物が出て、それが、人間を癒す薬となる。
 またあなたの主は、蜜蜂に啓示した。「丘や樹木の上に作った屋根の中に巣を営み、(地上の)各種の果実を吸い、あなたの主の道に、障碍なく(従順に)働きなさい。」
 それらは、腹の中から種々異なった色合いの飲料を出し、それには人間を癒すものがある。本当にこの中には、反省する者への一つの印がある。(聖クルアーン、蜜蜂章第六八、六九節)

1 序論

 二千年前の大昔から、人類はミツバチに関心を持ち、蜂蜜を治療用に、また薬品として用いてきた。
 古代エジプト人の墓碑に見られる象形文字(ヒエログリフ)は、紀元前四千年ほどの太古の時代から彼らによって養蜂が行われていたことを示している。蜂蜜には、働きバチによって集められた草花や、樹木の花のみつが含む独特の芳香がある。
 働きバチは、花のみつの成分を凝縮した液体糖分へと変化させる。これが、蜂蜜であり、古代エジプト王・ファラオによって「神聖な飲物」と呼ばれた。
 なぜならそれは、多くの疾病の治療に有効であったからである。
 もし私たちが、ミツバチのこの〝驚くべき生産物(蜂蜜)〟を注意深く、詳細に調べ、かつ明瞭に観察すれば、それが神の創造物の奇跡のひとつであることを知るであろう。またそれは、至高なるアッラーの啓示そのものである。蜂蜜は、それ自体花と花のみつの摂取物から成り、また不浄なる不純物から保護されている等の観点から、奇跡的である。よって、蜂蜜は優良な食品であり、私たちはよいもののみを食さねばならない。また、人間の疾病の治療に役立つ、良質な成分を含む食品を選ばねばならない。
 私たちは種としてのミツバチに目を向けると、そこには最大パワーを有するリーダーの存在に気がつく。ミツバチは彼(リーダー)に服従し、彼に導かれ、統一的行動をとり、彼と対立せず、個々のミツバチが勝手な行動をとることは決してない。
 真実を語る人・預言者ムハンマド(彼の上にアッラーの祝福あれ)は次の通り、述べている。
〝たとえばミツバチのように、アッラーを信仰する人。もし、あなたがその人を友とすれば、彼はあなたを助けてくれるでしょう。
 もし、あなたが彼をしっかり把握すれば、彼はあなたを助けてくれるでしょう。  
  またあなたが、彼と同席すれば、彼はあなたを助けてくれるでしょう。
 同様に、ミツバチにも有益な効用がある。〟

2 蜂蜜の成分

 蜂蜜は、炭水化物(糖質)、ナトリウム、食物性物質、酵素、花粉、水分から成り、人体にとても馴染みやすい物質である。
 蜂蜜の糖分は中性で、総質量の80%を占めている。従って、人体は蜂蜜を何ら負担なく体内に取り入れることが出来る。
 また、ナトリウム・各種ビタミン類・他の多くの知られざる物質を含み、これらは総質量の約5%に達する。
 その上、たんぱく質が3%、無機(鉱物)質を5%含む。水分に含まれる酵素が、バクテリアの殺菌に役立つ。
 水分中に豊富に含まれるカリウムは、バクテリア生存のための不可欠な湿度を取り去る作用があり、よってバクテリアは死に至る。

3 蜂蜜の健康への効用

(1)乳幼児に、母乳とともに蜂蜜を与えることによって、成長に良い影響を及ぼす。歯を丈夫にし、骨の成長をうながす。
(2)蜂蜜は、他の虫歯の原因となる糖質と異なり、虫歯発生の原因とはならない。また、乳歯成長期の幼児の歯ぐきを予防する効果がある。
(3)蜂蜜は、血液中の血糖値を下げる効果がある。よって、糖尿病患者には、薦められる。
(4)激しい咳の症状や、一般的な風邪の治療に、蜂蜜は有効。
(5)蜂蜜は、血液循環を良くし、体力やエネルギーの発生を助ける。また、肝臓機能を強化する酵素類を含むため、老人、幼児に効果的である。
(6)蜂蜜は、胃腸に複合的な効果を及ぼす。また、消化・吸収が容易である。よって、医師は、発熱・病気回復中、あるいは心臓病等の患者に、蜂蜜を処方する。蜂蜜は胃内に滞留しない。従って、胃から心臓への過度の負担とはならない。

4 蜂蜜は医薬品

 アッラーの使徒(彼の上にアッラーの祝福あれ)は言った。「あなた方には、二つの治療法がある。ひとつは蜂蜜、ひとつは聖クルアーン。」誠に、アッラーの使徒は真実を語っている。

(1)現代医学は、不妊に有効な治療方法として、ロイヤルゼリーの利用を見出した。またロイヤルゼリーは、男性に対し精子の数を増加させ、勢力増強の強壮剤となる。
(2)西ドイツの、イサルズ腫瘍病院の研究報告書は、「蜂蜜は、ガン患者に対し、大変効果的。」と述べている。
(3)フランスの化学者、アルティ・カイリスは、蜂蜜の成分中にラジウムを発見した。よって、蜂蜜に含まれるラジウムの発する放射線による、多くの悪性腫瘍・ガン患者の治療が可能となった。
(4)蜂蜜は、風邪の症状を緩和し、結膜炎等の眼科疾病の治療に有効である。
(5)蜂蜜は、腐敗防止に役立つ成分を含む。また、皮膚の表面を保護・強化し、滑らかにする。実際に、腫瘍(ただれ)、はれもの、裂傷の治療に蜂蜜を、塗り薬として使用したことがある。
(6)中世の医学者、イブン・スィーナは軽い切り傷の治療に、蜂蜜と小麦粉を混ぜ合わせた湿布薬の利用を勧めている。また、化膿した傷の治療には、蜂蜜と魚の肝油の混合物が使用された。
(7)スウェーデンの学者グループは、経度の頭痛患者の治療に蜂蜜を使用し、60%以上の実験成果を収めた。

〝ある男が、アッラーの使徒ムハンマドを訪れ、「私の兄弟が、下痢をしています。」と言った。すると使徒は「彼に蜂蜜を飲ませよ。」と申された。彼はその御言葉に従った。彼は再び使徒の元にやって来て、「蜂蜜を飲ませましたが、下痢はひどくなるばかりです。」と言った。彼は、さらに二度やって来た。アッラーの使徒は、三度めか四度めの時、「アッラーは真実をお述べになる。兄弟の腹のほうが偽っているのだ。」と申された。それで男は、兄弟に蜂蜜を飲ませ続け、するとその者の下痢は、癒えた。〟
(ブハーリーとムスリムが伝える預言者の伝承より。)

5 結論

 至高なるアッラーの啓示・御言葉を受けたミツバチは、ロウでできた巣を作り、そこに少しづつ蜂蜜を蓄える。また、山の洞窟、木のほらに、空家の中に巣を作る。もし、ミツバチに対するアッラーの〝吹き込み、語りかけ〟が無ければ、この不思議な被造物(ミツバチ)は、前述の各場所に巣を作ることもなく、またそこに蜂蜜を蓄えることも無かった。
 繊細かつ強固・驚異的なミツバチの巣の構造は、等しく六角形を並べた配列をなし、そこには何らの欠陥も、不調和もない。
 ミツバチは花や果実、花の匂いを求めて、遠隔の地へ飛び立ち、道を誤ることなく巣へと戻る。
 ミツバチの巣社会の構造は、支配力・権力を行使する女王バチを中心にあり、各々の巣には、女王バチを守り・従うミツバチが居て、一族以外のハチ類の侵入を許さない。これが、小さな個体と弱々しい身体構造の持ち主・ミツバチなのである。
 各ミツバチには、秩序立って各々の役割分担の仕事に専念する。よってミツバチは、創造主(アッラー)の完全なる御力と、アッラーの教示による比類なき行為の〝体現者〟として、明確なる証明となっている。
 実に、幾ほどの微小な生物が(ミツバチのような)アッラーの奇跡と証明を有しているのであろうか・・・・。
 一方、蜂蜜に関しては、聖クルアーンに「ミツバチの腹から、種々の異なった色合いの飲物が出て・・・・・・」とある。
 この生物(ミツバチ)の出す「種々の異なった」とは勿論、種々異なる花のみつの採集地の違いを意味している。
 蜂蜜は、アッラーの使徒の最も好まれた、良き飲料物であった。
 「信仰深き者たちの母」アーイシャ(彼女の上に平安あれ)は言う。
 「アッラーの使徒が、最も好まれた飲物は、蜂蜜である。」と。
 以上が、ミツバチと蜂蜜に関する記述である。真に、熟慮する人々のために、アッラーの奇跡がある。不可思議な世界の創造主、至高なるアッラーに賞賛あれ!
 もし、世界がアッラー以外の者の手によるものならば、そこには、様々の不都合が生じたであろう。

〔《イスラーム教育》誌より(訳/奥野英樹)