三、ザカートの効果


ザカートの道徳的物質的効果はきわめて明白です。ザカートを施すことは、その人の 財物に対する我欲と貪欲心を洗い清め、その人の心に貧困者に対する同情の念を強めるものです。そして、ザカートを受けることは、その人の心から金持ちや富み栄えて いる人たちへの羨望と反感の情を和らげ、かれの心の中に、たとえ施す人が余裕のある境遇にあるとしてもアッラーのために自分の財産を快く分けてくれることに対し親 愛と感謝の情を禁ずることができない心境となります。アッラーはクルアーンの中で一言われています。



「天と地の凡ての鍵は、かれに属する。かれは、御心に適う者に、恵みを広げ、またひき締められる。本当にかれは凡てのことを知り尽される。」(第42章12節)


「かれこそはあなたがたを地上の(かれの)代理者となされ、またある者を外よりも、位階を高められる御方である。それは与えたものによって、あなたがたを試みられるためである。」(第6章165節)



このように、ムスリムは富裕者であれ、困窮者であれ、みな現世でのあり方において アッラーに試されています。財力のある者は寛大で慈善の心を持ち、アッラーからの授かりものを自分たちの友に分かち与える義務があり、貧困の者は忍耐し、生活を改 善するために努め、他人の羨望する心を抑えるよう努力する義務があります。来世での人の最終的な運命を決定するものは、人間の現世での富や地位ではなく、それはそ の人のアッラーへの帰依の心、美しい品性およびアッラーから授けられたものの使い方にかかっているとクルアーンでは述べています。預言者ムハンマド(かれの上に平安あれ)は 次のように言われました。


「寛容なる者は、アッラーに近く、天国に近く、人に近くて地獄からは遠い。吝嗇な るものは、アッラーからも天国からも人からも遠く、地獄に近い。まことにアッラーは心の狭い吝嗇な信者よりも、イスラームの教義に暗くとも困窮者に恵みを施す寛容 な人を賞でたもう」と。イスラームでの経済的原則は、クルアーンに記されているとおり、富を厳しくそして普遍的に分配することにあります。



「……それはあなたがたの中の,只富裕な者の間に専らわたらせないためである。」(第59章7節)



このようにイスラームでは、富の死蔵と無制限な資本の蓄積を禁じ、富の強制的な平 等分配も認めてはいません。それは、そのいずれもが正当性を欠くからです。イスラームの教義に従えば生活の手段や富の獲得は合法かつ、妥当でそして生産的な方法で 行われ、それによって得た利益は、労働者資本家および社会に広く正しく分配するように勧めています。宗教的見地よりすれば生産された富の社会への還元と分配は、す なわちザカートとサダカでありますが、ザカートは義務的なものであり、サダカは各人からの自発的なものであります。ザカートが正しく行われるならば、社会の差別、 競争、疑惑および腐敗を抑制するのに大いに力となり、他人に対して互いに愛と尊敬の心をもち、他人の幸福に同情と関心をもつ人びとの社会を作り上げてゆくことにな るでしょう。


ザカートを人に与えることは、優越感の問題とは全く関係ありません。それは礼拝と 同じく信仰にもとづいた義務であり、ザカートを完遂することによって、その人はムスリムとしての行いを果したことについてアッラーに感謝し、これまでに犯した罪の 赦しを請い願ってアッラーに礼拝しなくてはならないのです。


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