イスラームの政治理論

イスラミックセンター編著


三、イスラーム政治理論の第一原理


アッラーの唯一性と至上性を信ずることは、社会的道徳的機構の基礎である。それは まさにイスラーム政治哲学の出発点である。イスラームの根本原理は、人間は個人と しても全体としても至上権、立法権、他者への支配権のすべてを放棄せねぱならない ということである。何人も自らの権利で命令を下したり要求することは許されず、ま た何人もそのような要求の遂行、命令に従う義務を受け入れてはならない。何人も彼 自らの権威で法律を制定する資格はなく、何人もそれらを強制されることはない。こ の権利はアッラーのみに帰する。


大権はアッラーにだけ属し、あなたがたはかれ以外の何ものにも仕えてはならないと 命じている。これこそ正しい教えである。(第一二章 四〇節)


心の中で言った「わしらはこのことで、いったい何を得るのであろうか」言え「まこ とにこのことは、あげてアッラーに属するのだ」


あなたがたの口をついて出る偽りで、「これは合法〔ハラール〕だ、またこれは禁忌 〔ハラーム〕です。」と言ってはならない。(第一六章 一一六節)もしアッラーが 下きれたもので裁判しないものは、不信者〔カーフィル〕である。(第五章 四四節)


この理論によれば、主権はアッラーに属し、彼だけが立法者である。誰でも、たとえ 預言者でも、他の人々にすべきこととすべきでないことを命令する権利はない。預言 者自身も神の要求に従属する。


わたしは、只(ただ)わたしに啓示されたことに従うだけである。(第六章 五〇節)


他の人々は預言者が彼自らの命令ではなく、神の命令を宣言するゆえに彼に従うよう 求められる。われが使徒を遣わしたのは、唯(ただ)アッラーの御許しの許に服従、 帰依させるためである。(第四章 六四節)


これらの者はわれが、経典と権能と預言の天分を授けた者である。(第六章 八九節)


啓典と英知と預言者としての天分をアッラーからいただいた一人の人間でありながら 、後になって人びとに向い、「あなたがたはアッラーの外に、わたしを崇拝しなきい 。」とは言えない。むしろ「あなたがたは、主の忠実なしもべとなりなさい。」と( 言うべきである)。(第三章 七九節)


クルアーンに明示された表現からひき出し得るイスラーム国家の主たる特徴をまとめ ると、


(1) 個人、階級、集団、また国家構成員総体でさえも主権を主張することはできない。神 だけが真の主権者で、他のすべては彼の下僕にすぎない。

(2) 神は真の立法者であり、絶対的立法権は彼にある。たとえある法律を制定しようとい う欲求に、あるいは神の法の変更に皆が賛成していたとしても。信仰者はまったく独 自の法律に頼ることも、また神の制定したいずれの法も修正することはできない。( 註二)

(3) イスラーム国家はすべての点で、使徒を通じて神が制定した法に基づかねばならない 。政府は、神の法を施行するための政治的機構として存在するかぎりにおいて、国民 の忠順を要求する資格がある。しかし神によって啓示された法律を無視すれば、その 命令は拘束力を失う。






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