イスラーム入門シリーズ
聖預言者ムハンマド



十三、ヒジュラ(マディーナへの脱出)



 クライシュ族が、絶望のあまりムハンマドを暗殺することによってメッカでの布教をやめさせようと決意したのは、ムハンマドがアッラーのお告げを受けてから十三年目のことでした。



 バヌー・ハーシム家からの復讐を恐れて、暗殺者はそれぞれの部族から一人づつ選ばれ、ムハンマドを殺害した時でも一つの部族だけがその責任をとらなくてもいいようにされていました。



 それはバヌー・ハーシム家だけでは、すべての部族と同時に戦えないと判断したからです。しかしアッラーは、暗殺者たちの隠謀をムハンマドに啓示していたので、彼は無事に脱出できたのです。



 クライシュ族が預言者暗殺を計画した夜、彼等がムハンマドの家を包囲した時、彼は従弟のアリーに自分の代わりにベッドに寝ているように頼みました。



 このような危険がさし迫った時でもムハンマドは、他人からあずかった品物を持ち主にかえすようアリーに依頼することを忘れませんでした。



 このことは、ムハンマドがたとえ非イスラーム信者からでさえ、自分に寄せられた信頼はあくまでも尊重しなくてはならないという例を示しています。



 それからムハンマドは家を出て、待ち伏せている暗殺者の間をぬって抜け出したのですが、ちょうどその時、アッラーの恵みによって、暗殺者達はわけのわからぬ眠りに襲われ、ムハンマドが通ってゆくのをまったく気づきませんでした。



 その後彼等は、ムハンマドの寝室に忍びこみ、そこに寝ていたのがムハンマドではなくアリーであることを知ると、激しく激怒しくやしがりました。



 しかしその時すでに預言者は、信頼する友人アブー・バクルと共にマディーナへの道を急いでいたのです。



 警鐘が打ちならされ、クライシュ族は預言者に追手をかけました。



 追われる預言者とアブー・バクルの二人は、夜を徹して歩き続けましたが、日が昇った時にサウルの洞穴に着き、休息と追手から身を守るため洞穴の中に入りました。



 クライシュ族の一団が洞穴の入口に着いた時、洞穴は荒れ果てとても人がいるけはいなどなかったため、彼等は中に入いらず通りすぎていきました。



 アブー・バクルはこの危機に直面して、ただおろおろとあわてふためいていましたが、預言者は「心配することはない。アッラーは、われわれと共にいましたまう」(クルアーン第九章第四十節)と言って、アブー・バクルを力づけました。



 アッラーの慈悲を信じる者は、決して恐れたり自信を失ってはならないのです。



 それは、アッラーこそが信じる者にとって最高で最強の保護者であるからです。



 クライシュ族が、ムハンマドを生死にかかわらず捕えたものには駱駝百頭を報酬として与えるという懸賞を出したので、多くの人は、懸賞金ほしさと復讐のためにムハンマドを捕えに出かけてゆきました。



 しかし誰一人として捕えることはおろか、傷つけることさえできませんでした。



 かくして二人は、無事マディーナに到着することができました。



 クルアーンではこのメッカ脱出について次のように述べています。



 「……かれら(不信心の者たち)は、策謀したが、アッラーもまた計略を整えたもう。まことにアッラーは、もっともすぐれた計略者であられる。」(クルアーン第八章第三節)






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