イスラーム入門シリーズ
聖預言者ムハンマド



八、預言者としてのムハンマド



 ムハンマドがメッカ郊外のヒーラの洞穴に時々こもるようになってから、彼は、人間、宇宙、万物の創造者、そして人間と創造者との関係について、それらの根本的な問題を考えるようになりました。



 彼は、この世界の人間生活の各部分をつかさどる多くの神々が存在したり、人間の手で木や土から作られた偶像が、人間の諸活動に影響力があるなどとは決して信じませんでした。



 至高の神アッラーに対してのみ、ムハンマドは、自己の瞑想と信仰を捧げたのです。



 イスラーム暦の九月であるラマダーン月のある夜(アラビア語の「ライラドゥル・カドル」即ち「力と崇高の夜」)、当時四十才のムハンマドは、ヒーラの洞穴で瞑想していた時、「読め(アラビア語の〈イクラア〉」という力強い声を二度も耳にしました。



 ムハンマドは、驚いて平伏し、「私は読むことが、できないのです」とその声に答えました。



 しかし、ムハンマドが最後に「私は何を読んだら、よいのでしょうか」と震えながらたずねるまで、その「読め」という命令はくり返されました。



 すると、その質問には次の答えが返ってきたのです。



 「読め、創造したまえる方、なんじの主のみ名によって。一凝血から、人間をつくりたもうた。読め、なんじの主は、こよなく尊貴であられ、筆によって教えたもうた方、何も知らなかった人間に、教えたもう方であられる。」(クルアーン第九六章 第一−五節)



 これは、天使ガブリエルによって伝えられたクルアーン最初の啓示だったのです。



 ムハンマドは恐れおののいてすぐ家に帰り、妻のハディージャにその日の出来事を話しました。



 妻は、優しく彼をいたわりながら、「あなたは、これまで真直ぐに生きてきた正直な人ですから、神様はきっとあなたを守って下さるはずです。何も心配することはありません。」と慰めました。



 その後まもなく彼の妻ハディージャは、イスラームに帰依した最初の人になったのです。この最初の啓示があってから、アッラーは天使ガブリエルを通してムハンマドに啓示を与え、彼がアッラーの教えを広め、誤った人々に正道を伝えるためにアッラーの使徒として選ばれたことを告げられたのです。



 この時からムハンマドはイスラームの布教活動をはじめ、神の唯一性、アッラーへの帰依、偶像崇拝のおろかさ、及び現世での行為がアッラーの前で裁かれる最後の審判の日の到来を人々に説きはじめました。



 その当時の宗教はただ単に信心だけでしたが、イスラームは、行動を伴わない単なる信心は全く無意味で人間生活には無益なものであることを人々に強く説いたのです。



 クルアーンは、神の唯一性について次のように宣言しています。



 「言え、かれはアッラー、唯一者であられる。アッラーは、自存者であられ、かれは産みたまわず、また産まれたまわぬ、かれに比べ得る何ものもない。」(クルアーン第一−二章 第一−四節)



 アッラーからのお告げはきわめて簡単で基本的なものだったのですが、メッカの多くの偶像崇拝者たちには、きわめて危険な挑戦と脅威に感じられたのです。



 彼等はこれまでの自分達の生活様式変えたくはなく、また偶像をすててしまっては自分達の力も失われるものと心配して、ついにきわめて残酷で執拗なやり方でムハンマドを迫害しはじめたのです。しかし、アッラーに守られている人を実際に傷つけることは誰もできませんでした。







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