第3章予言
H、普遍的な伝言

 それとともに今や彼はユニーグな哲学者、復れた改革者、文明と文化の新しい形成者、優れた政治家、偉大な指導者、最高の審判官比類なき将軍として人々の前に現れた。この無学なペドウィン人、この砂漠の住人は、何人も彼の先にも後にも説くことがでざなかったような学識と知恵を以って話した。彼は形面上学と神学の複雑な間題を説明した。彼は過去の歴史的資料によって彼の学説を進めながら、民族と国家の興亡の原理を講述した。被は過去の改革者の業績を評論し世界のさまざまな宗教を批判し、民族の聞の摩擦と相剋に判断を与えた。彼は倫埋の規範と文化の原則を教えた。最高の思想家や学者が生涯をかけて研究し、人事百般について深い経験を経てはじめて本当の真理がつかめることができるような社会文化、経済組織、集団行動、国際関係の原理を説いた。実際、人間は理論的知識と実際的経験において進歩するに従って、知識と経験の美しさは漸次実ってくる。以前に一度も剣を振ったこともなく、軍事訓練を受けたこともなく、戦争にはただ一度のみーーしかもただ傍観者としてしか参加しなかったこの静かな平和を愛好する商人は、どんなに激しい戦いに一度も退却しなかった勇敢な軍人に突然変った。彼は兵器が幼稚で交通機関が貧弱であって当時にあって、九年間にアラビアの全土地を征服したほどの偉大な将軍となった。彼の軍事的天才と機動性は最高度に発揮され、彼が鼓吹した尚武の精神とアラピア人の塵のような群衆に授けた軍事訓練は数年を出でずして、アラビア軍は当時の二大強固を破り当時知られている世界の大部分の支配者になったほど奇蹟を生んだ。
 五十才をとっくに越してから今まで政治活動には少しの関心を示さなかったこの落着いた物静かな人物が非常に律大な政治の改革者として突然世界の舞台に現れた。彼はラジオや無線や印刷物の助けをかりないで百二十万平方マイルの砂漢に散らばって住む人々、好戦的で無知で粗野で暗愚で、部族間で共倒れになるまで戦いに耽っている民族−−を一つの旗印、一つの法律、一つの宗教、一つの文化、一つの文明、一つの政治形態の下に結合させた。彼は彼等の考え方や習慣や道徳を変えた。彼は粗野な人間を上品に、野蛮な人間を文化的に、悪事をなす人と性悪な人を敬虔な神を恐れる正しい人問に変えた。彼等の手に負えない頑固な性質は法律と秩序に服従する模範となった。名前をあげるほど偉大な人間を一人も生んだことのないその艮族が彼の影響と指導の下に、数世紀の間に世界の隅々まで宗教と道徳と文化の原理を説教のために出かけた何千人もの高貴な人間を生んだ。
 彼はこの偉業を世俗的な魅惑や圧迫や強制によってではなく、彼の魅力的な態度と誰からも慕われる高潔な人情と確信に溢れた伝道によって成し遂げたのであった。その高貴で上品な態度で、彼は彼に敵意を抱く者とすら仲良くなった。彼は限りない同情心と親切な人情で、彼は人々の心をとりこにした。彼は正しく政治をした。彼は真実と正義から逸れたことがなかった。彼は彼の命を狙ったり、彼に石を投げつけたり、彼を生れ故郷から追放したり、アラピア全土をあげて彼に反対させたりした憎むぺぎ敵すら−−否、復讐に狂って彼の亡くなった伯父の肝を食ってしまった人々でさえも弾圧しなかった。彼等を征服した時彼は彼等すべてを許した。彼は自分の個人的不満や自分に加えられた意地悪のために復讐したり恨みを晴らしたりは決してしなかった。彼は国の支配者になったのにもかかわらず、非常に無私無欲かつ謙虚でその生活は極めて簡素で切詰めたものであった。彼は以前と何じように粗末な草ぶきの泥の家に住み床の上に眠り、粗未な着物を着、最も質素な食物を会ベ、時には全然食物を食ぺないで外に出て行くこともあった。彼は彼の主の前に祈りをささげながら毎晩を過ごすのが常だった。彼は貧しくて一文もない人々を救いに出かけた(註)彼は労働者のように黒くなって働くこを少しも恥とは思わなかった。彼には最後まで王者の華美誇示や権勢者や、富者にありがちな傲慢な態度が少しも見られなかった。普通の人のように人々と共に日常坐臥し、その昔楽を共にした。彼はそれほと入々と交わりいっしょになっていたので、知らない人や外部の者には、誰が国民の指導者で国家の支配者であるのか見分けることは難かしかったという。
 それほど偉大でありながら、彼の貧賎な人に援する態度は何等他の人とわけへだてがなかった。彼の全生涯の努力と奮斗を通して、自分のためには少しも利益や報酬を求めず、また彼の後継著に財産を残さなかった。彼は総てを国民のために投げ出したのであった。彼は彼の子孫がザカート(喜捨)の恩思を愛けることすら禁じたほどであるから、彼の信者が彼や彼の子孫のために何物をも求めなかった。将来彼の信者が彼等のためにザカート(喜捨)の全割当を出すようになるのを恐れたからであった。

 

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