第3章予言
B.アラビア―無限の暗黒
   その盲濛な時代に暗黒が更に深く重く横たわっていた土地があった。ベルシャやピザンチンやエジブトなどの隣接する国々には低次の文四と学問の微光がみられた。しかしアラピアはそれらの文化的影響を全く受けることが出来ず、砂漠の大海原にさえぎられて、孤立していた。アラピアの商人は数ケ月もかかる遠距離を旅し、これらの国々にあちらこちらへ荷物を運んだ。だが彼等の旅行は知識を得るためではなく又それを吸収する下地即ち知的教養も持ち合わせなかった。自分の国には一つの教育施設も図書館も持たなかった。誰一人として教養や知識の向上に関心を示さないようであった。読み書ぎのできるわずかの人々も学術と科学を活用するほど教養がなかった。然し彼等は人間の考えの微妙なる色合いを素晴しくうまく表現することができる高度に発達した言語を持っていた。また高尚な文学趣味を持っていた。しかし彼等の当時の文学遺産を研究してみると、いかに彼等の知識が乏しく、いかに文化と文明の水準が低く、いかに心に迷信がしみ込んでいたか、いかに思想と習俗が野蛮で凶暴であったかまたいかに道徳感が粗暴で頽廃していたががよくわかる。
 アラビアは政府のない国であった。すべての部族は主権を主張し、独立体だ信じていた。”ジャングルの法以外に法律はなかった。罪のない弱き人々を略奪し、放火し、殺すことが当時の秩序となった。生命と財産と名誉は常に危機にさらされていた。それぞれの部族は互に深い敵意を懐いていた。どんな些細な事件でも残忍凶暴な戦争の原因となって、時には数世代も休みなく続く国をあげての大戦火に発展した。実際、ペドウィン人は彼が生殺与奪の権利を持つと考える、他の部族の人間を何故解放せねばならないのか理解することができなかった。

(注)−ジョセフ・へル教援は”アラビア文明”で次のように書いている。「これらの斗争は国民統一の理念を破壊し、すくいがたい”特殊主義”を発展させた−それぞれの部族は自ら自給自足できると信じ他の部族を殺人と強盗と略奪の合法的犠牲と見倣した。」(一○頁)−編者

 彼等の道徳や教養や文明にたいする考え方はすべて原始的で粗野であった。彼等は純粋なものと不純なもの、合法的なものと非合法的なもの、社会的なもの非社会的なものの区別がほとんとでぎなかった。彼等の生活は野蛮であった。彼等の秩序もまた野蛮であった。彼等は不貞と賭博と飲酒に耽っていた。分捕りと略奪は彼等のモットーであり、殺人と強盗は常習であった。良心にとがめられることなく互に真裸でいた。魔人でさえも、カァバ神殿を巡回する儀式の際にも裸であった。全く愚かな威信から、自分の義理の息子になることを恐れて、自分の娘を生きたままで埋めたりした。彼等は自分の父親が亡くなるとまま母と結婚した。彼等は食べたり、着たり、洗濯したりする日常作法の初歩さえ知らなかった。彼等の宗教的信仰はどうかというと、世界の人々を破滅に陥しめているのと同じ害悪を蒙っていた。
 彼等は石や樹木や偶像や星や妖精−要するに神の他に考えられるすべてのものを崇拝していた。彼等は古の予言者の教を少しも知らなかった。彼等はイブラヒムとイスマイルが彼等の先祖であるということは知っていたが、イブラヒムとイスマイルの宗教の垂訓と彼等が礼拝した神についてはほとんど知らなかった。彼等の伝説にはアドとタムドの物語が見出せるが、その物語は予言者フードとサーリヒの教えを少しも含んではいなかった。ユダヤ人とキリスト教徒はイスラエルの予言者のことを述べている伝説的な説話を彼等に伝えてきた。

 

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