日本イスラーム史・序文
藤枝晃先生
カリフォルニア大学教授
京都大学名誉教授
本書の著者ムハンマッド・ムスタファ小村不二男君は、日本では極めて珍しいイスラム聖職者である。それも父君から引続いてのモスレムであるという。その様な例は、現在の日本では絶無なのではあるまいか。
同君は、戦時中に蒙古の厚和(現在の内蒙古自治区呼和特市)に在ってイスラム関係の仕事に携さわっていた由である。私も一九四四年春に張家口に設立せられた西北研究所の所員となり、同年夏に蒙疆地区のイスラム事情調査のため厚和を訪れたが、その時は同君は軍隊に刀口集せられて会うことはできなかった。
私は、戦後に引揚げて京都の東方文化研究所に復職し、この研究所は三十年後に京都大学人文科学研究所に改組せられた。その数年後と思うが、小村君と故サリーム築山刀君(興亜義塾三期生)と共に私を訪ねて来られた。
これが小村君との初対面であったが、同君は職務の関係で蒙古善隣協会といろいろ因縁があり、西北研究所も興亜義塾も、蒙古善隣協会の経常に係り、三人の間には共通する話題がたくさんあった。
のち小村君は東京に移ったが、この数年来、私が上京するごとに旅宿に米誌せられ、また同君が京都へ来ることもあり、会談と文通の機会が多くなった。その間に同君が「日本イスラーム史」の執筆に精根を傾けていたことは聞いたが、昨年春にその原稿が完成したについて出版の相談をうけた。だが、このような商業出版に向かない本については、私は何の力にもなり得なかった。
ところが数一月前に出版の運びになったと知らされ、且つ驚き、且つ喜んだ。喜んだというのは、日本でのイスラームの歴史の大半は著者自身の足跡であり、般の眼には触れない日本の歴史の一つの側面が、伝聞や借りものでなく、著者自身の体験として語られた貴重な記録だからである。



一史学者として私は、本書の発刊を心から祝福したい。同時に、本書をここまで仕上げた小村君の労を多とする次第である。

一九八八年二月一日
米国バークレー市、
カリフォルニア大学デュラント館の研究室にて

書名
著者
出版社
出版年
定価
日本イスラーム史・戦前、戦中歴史の流れの中に活躍した日本人ムスリム達の群像
ISBN: 不明
小村不仁男 東京・日本イスラーム友好連盟 昭和63 3800


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